2010年12月15日水曜日

屁糞蔓(へくそかずら)


                     ( 写真は くじゅうに咲く花 より )

   その昔  私が、 艶やかな 紅紫の 衣の上に、 清らかなる 

   灰白色の 衣を 重ね、  裾を 翻して  興じているさまは、 

   誰をも  魅了する  愛らしさで  ございました。

   その 可憐なさまを  称して ” 早乙女花(さおとめばな) ” とも

   ” 早乙女かずら ” とも  呼ばれて おりました。

   本名は  ” へくそかずら ”  で ございます。

   なんとまあ、 情けない、 悲しい  名前では ございますまいか。

   [ 楚久妃 (そくへ) ]  つまり  永久に 楚々たる 美しき 姫、

   との 意で  名付けられましたが、 生まれた折より  病弱で

   ございましたので、 占いにより、 縁起を 担いで  逆さまに

   [ 妃久楚 (へくそ) ] と  なったので ございます。

   親は  私が 無事に 育つことを 願い、 一日中  白檀、伽羅

   などの 香木を 焚き、 加持、祈祷に  励んだので ございます。

   いつしか この 馥郁たる香りが、私の身に すっかり 染み込んで

   参りました。 その当時  誰も、 芳香強き 香りが 混じり合えば

   堪えられぬ 悪臭になる などとは、 知らぬことで ございました。

   年頃になると 噂を聞きつけて、 私の 愛らしい姿を 一目 見よう

   と  こっそり 忍び込んでくる 殿方が、 後を 絶ちませぬ。

   ただ、 一度 逢うたが 最後、  鼻をつまんで 立ち去り・ ・ ・ の

   繰り返しで、  どれほど 辛い、 寂しい 想いを したものやら・・。

   だが、 何が 幸いするか わかりませぬ。

   次々と 子宝に 恵まれ、 今は、 孫、 ひ孫、 やしゃご と 

   大家族で、  幸せに  暮らしておりまする。 

   ただ、 この年になっても  独り立ちは 出来ず、 いつも 誰かに 

   頼って  甘えてばかり。  皆から  笑われて おりまする。

   ほんに 長生きは  するもので ございますなあ。 



   : 晩秋になり、そこかしこに ”ヘクソカズラ” の 黄金色の実が

     わが世の春を 謳歌している様子を 物語に してみました。

17 件のコメント:

  1.  よくぞ取り上げてくださいました!           子供のころから、この"ヘクソカズラ" と "イヌフグリ"には、同情してたんです。
     ところで「楚久妃」のくだりは、本当なんですか?

     今、我が家のドアには、ヘクソカズラ・リースが黄金色に輝いています。秋に多量に採っておいて丸く束ねるだけで、とっても簡単です。

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  2. 「鬼も十八番茶も出花」と同じ意味で「屁糞葛も花盛り」ということわざがあるそうですね。万葉の頃からすでに悪名が付いていたようですが、中心部をよく観察すると紫色の部分から腺毛が生えていたりして、結構可愛いものです。
    「蓼食う虫も好き好き」ということわざもありますが、スズメガの仲間のホシホウジャクはヘクソカズラしか食べないそうです。

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  3. 44番教室さん
    よくぞ 言って下さいました!
    「へくそかずら姫」物語は ひとえさんと 約束して
    いたのです。
    なんとか 年内に UP出来て ホッとしています。
    [ 楚 久 妃 ] は 何か 美しい名前は と思案の
    挙句の いつもの 口から 出まかせです。(笑)
    あなたに「本当なの?」と 尋ねられ、有頂天です。

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  4. 長さん
    「メチルメルカプタン」という 本当に 臭い 成分を
    持っているのですね。
    そのお陰で 虫から 身を守っていると 思っていたのに、
    ホシホウジャクの話は 驚きです。
    万葉集にも 一首 詠われており、 その 歴史は 
    古いようですね。

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  5. なんとまあ素敵なヘクソカズラ姫!
    今は屁糞という字を頂いてしまうようになった名も、元をただせば親の愛の賜物だったのですね。

    それにしてもたかようじさんの発想の自在なこと、悲しい姫の物語に涙してしまいそうになりました(笑)。

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  6. ひとえさん
    >悲しい姫の物語に涙して・・・、  あくびをしたか、
    笑って 涙が 滲み出たのでは ありませんか?
    美しい、悲しい物語に 心魅かれ、目指しているのですが、
    なぜだか、出来上がれば、どこか 滑稽な お話。
    ヒロインの 選択が、 間違っているのかしら?
    なあ~んて 思ったりします。(笑)

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  7. ”人や物の名は そのものの実体を表している”
    言われるが、外見は可愛い姫。名付け親、本人が
    そのものの実体であったろうと推察されます。
    ヘクソカズラは動物そのものの実体のように思わ
    れる。
    見る人の目の心で 美しくもそうでなくも見える
    ようですな~~

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  8. ぶらり爺さん
    ”名は 体を 表す ”と いうことですね。
    その通りだけれど、植物には 気の毒な名前や、
    すさまじい名前 など あって、 驚かされます。
    人間社会においては 長い間、”人は見た目より
    ただ心 ”と 言われましたが、最近は ”見た目は
    その方自身 ”という意見も 多くなってきました。
    世の中、優しい眼差しで過ごせたら、楽しいですね。

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  9. 人にも長所と短所があります。
    短所の揚げ足とりをするよりは長所を褒めて、人のお付き合いはしたいものです。
    ヘクソカズラの花の美しさを愛でて野原を散策したいです。

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  10. shuuterさん
    ヘクソカズラの 細長い 釣鐘形の 花は 
    本当に 可憐ですね。
    また、花の 開花時期も 長いので、散策の時
    愛でることが 多いです。
    黄金色の 実と なれば、リースの材料に 重宝。
    ぜひ、来年は この実で、作ってくださいな。 

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  11. お早うございます!秋の散歩道、この花を良く見かけました。特に花の少ない時期の農道ですから目立ちます。息を吸わずに近くに顔を寄せて一目見て立ち去った日々を思い出しています。

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  12. 信徳さん
    今、北九州では、「妃 久 楚 カズラ」の 天下です。
    大げさではなく、わが世の春 とばかり、威張っています。
    なんだか、年々 増えている 気が、するのですが・・・。
    私の 思い過ごしでしょうか?

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  13. 「ヘクソカズラ」も、たかようじさんにかかっちゃあ、どうしようもなさそうですが、でも、きつと幸せですよ。全く印象が変わってしまいます。(笑)
    大変に不名誉な名前を貰ったものですね。そうと名前を聞くと庵主さまの好奇心は黙ってはいませんでした。過去に何度もご挨拶をさせて頂きましたが、少々青臭いだけのこと、「屁」まで付けなくてもよいのでは?が感想ですね。
    しかし、「早乙女カズラ」さんでは、ここまで強烈な個性も発揮出来なかったでしょうし、認識もされてはいないでしょうね。「オオイヌノフグリ」とて然りですよね。名前ってとても大事なことなのですね。
    でも、でも、このへんてこな名前の主は、可愛いいですよね。大好きですね。そして今、我が家の玄関戸には、クリスマスリースに黄金の実が光り輝いています。

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  14. 庵主さま
    やはり 44番教室さんと 気が 合いますね。(笑)
    彼女の 玄関の クリスマスリースも この実ですし、
    「オオイヌフグリ」への 深い 同情心も 一緒。
    >名前って とても大事なこと・・・を、 頭に
    置いて いつか 「 オオイヌフグリ」の お話を
    書きたいと 思います。

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  15. こんにちは。
    実際にあったお話と思えるほどです。
    「香木を焚き」なんて辺りからは晩年は別名にある『ヤイトバナ』にも話が発展するのかと先走ってしまったほどです。
    愉しく読ませて頂きました。

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  16. kako狸さん
    おっしゃるように 別名 ”ヤイトバナ”(花の中心部の
    紅紫色が、お灸をすえたあとの 色に みえる)へと
    話の 進め方が あったのですね。 迂闊でした。
    私は バブル時代、大流行した ”プワゾン”の 濃厚な
    まさに ”毒 ”の 香りに 想いが いって いたのです。あの当時、色々な パフュームの 香りが 充満して、
    強烈でした。 それ以来、 香水を つけるのをストップ
    しました。 今は フローラルな 香りを 時折 つけて
    楽しんでいますが。

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  17. おはようございます。
    迂闊なんて事は無いのです。
    お香ですもの香りの方向で良いのです。
    私の方がたかようじさんの物語があまりにお上手なので嵌ってしまいました。
    まぁ!懐かしい、ディオールのプワゾンですね。
    今でもあの瓶覚えています。
    勿論香りも鼻の先に残っている様に思います。
    あんな強烈な香りを猫も杓子もシュッシュしていたのですね。
    今では夜の外出でも強烈過ぎて付けて出られませんね。
    今でも売っているのかしら?
    私まで持っていたくらいですから、バブルの時代の流行だったのですね。
    あの当時は恋人からも香水のプレゼントが多かったですね。
    私も滅多に香水を付けなくなりましたが、たまぁ~にライトなものを付けてはみますが、行く場所が無くて・・・
    ボランティアや病院通いではね。
    では行って来まぁ~す!

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